座位と健康
「成人では、座りすぎは、総死亡率や心血管系疾患、がんによる死亡率の上昇、心血管系疾患やがん、2型糖尿病の発症の増加といった悪影響を及ぼす。」このようにWHOの身体活動・座位行動ガイドラインに記載されています。皆さんは平日に座っている時間はどれくらいでしょうか。業務内容によって大きく異なると思いますが、世界20カ国で18歳から65歳の成人の平日の座位時間を調べたところ、日本が20カ国中最長という結果が出ています。中央値で1日420分座っているということです。
我々が自覚する座位の悪影響には、肩こり、腰痛、筋肉の萎縮、血行不良などが挙げられます。足の筋肉量が落ちると代謝機能が下がり、疲れやすく、血液の流れも悪くなります。体の中で最も大きい筋肉がある太ももを動かさないことで、糖や脂質の代謝も低下してしまうために、肥満や糖尿病のリスクも高まります。その他にも海外の調査では座位時間と死亡リスクについても調査が行われていて、1日の座位時間が4時間未満の人に比べて11時間以上の人は1.4倍も総死亡リスクが高まるという結果がでています。座り時間が長くなるということは生活全体が「不活発な状態」を意味します。職場における座位時間が短いほどメンタルヘルス不調が少ない傾向がみられるという研究結果もでています。
健康づくりのための身体活動基準2013では、身体活動の推進策として「プラス・テン」、すなわち現在の生活に1 日10分間、活動的な時間を増やすことを呼びかけています。身体活動時間を現状より
1 日あたり10分増加させることで、死亡や生活習慣病、がん発症、ロコモティブ症候群・認知症発症のリスクを3.2%減少させることができるというエビデンスに基づいています。重要なのは「座る・動くのバランスを適切に保つこと」だと言われており、長時間同じ姿勢でいることが健康に悪影響を及ぼすのは間違いないため、働く時間の中でも動くことの工夫をしていくことが重要です。
医療法人社団成澤会 清水橋クリニック 労働衛生コンサルタント 医師 古川 泰
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